研究内容/Research

概要

臨床レトロウイルス学分野では、HIV-1感染症の治療下における病態解析に基づいて、新たな治療法やワクチンの開発を目指した研究をしています。強力な抗ウイルス薬の多剤併用療法(anti-retroviral therapy ; ART)の導入によりエイズ発症は阻止可能となりましたが、ART治療下においても、ウイルスは残存し続けます。有効な抗ウイルス薬の存在下にどのようにしてウイルスが持続感染を続けているのかを明らかにし、残存ウイルス感染細胞を標的にする新たな治療法を開発することは、もっとも重要な研究テーマと考えます。一方、長期にわたりART治療なしでもウイルスの増殖が抑えられている症例から多くの中和単クローン抗体を分離し、ワクチン開発の基礎研究を行っていますが、これらの中和抗体はウイルスのエンベロープ三量体の構造変化を誘導する小分子の働きによって飛躍的に中和活性が増強されることを見出しています。中和抗体、小分子、CCR5阻害剤などの新しい抗ウイルス薬を併用して、残存感染細胞の排除の可能性を探求しています。この目的のために、中和抗体産生細胞から遺伝子を分離して、遺伝子組み換え抗体を作成するなどの新たな挑戦を行っています。

I. HIV感染症例の病態解析と新しい治療法の開発

抗ウイルス薬の多剤併用療法(ART)は、HIV-1感染症に劇的な改善をもたらしました。しかし、血中のウイルスRNAが測定感度以下だからといって、ウイルスが完全に排除されたわけではありません。我々は、残存ウイルスの動態の研究のため、末梢血中のプロウイルスDNA(pDNA)量の高感度測定法を開発しました。そして、治療を長期にわたり継続することでpDNAを予想以上に低下させうることがわかってきました。では、長期間治療がうまく行っている症例に残存しているウイルスはどのようなものなのでしょうか。経時的にプロウイルスのエンベロープのシークエンスを比較検討したところ、治療期間が長くなるほど病初期のウイルスとの関連はあるものの、ばらつきが少なく均一なクラスターを形成していくことがわかりました。このことは潜伏ウイルスが周期的に再活性化することで維持されている可能性を示しています。

残存ウイルスを標的とした治療法を開発するためには、感染症例の検体について超高感度のHIV-RNA測定法を用いて解析し、残存ウイルスの動態をさらに検討するとともに、サルの系を用いた感染動物モデルの構築が必要です。現在、京都大学ウイルス研究所の五十嵐教授、三浦准教授、東京医科歯科大学の玉村教授、本センターの吉村准教授とともに臨床分離株由来のSHIV感染系を構築し、抗ウイルス薬、中和抗体、エンベロープ3量体構造の構造変化を誘導する小分子などの併用による残存ウイルスを標的にした治療戦略を評価するための前臨床試験を計画しています(図1)。

(図1)

Ⅱ. 治療用中和抗体及びワクチンの開発

ARTにより、ウイルスの抑制を長期間継続することにより、自己由来のHIV株を中和できる抗体が出現し、良好な臨床経過を示す感染者があることを明らかにしてきました。また中和抗体の存在下にリバウンドしてくるウイルスは中和抵抗性であり、in vivo でも中和抗体が選択圧として作用していることを示しました。一般的に多くの感染症例では、中和抗体は限られた分離株を中和するのみで、同時期に増殖しているウイルスを中和できないことが分かっています。このことは、KD-247のような広範囲のHIVを中和する抗体の誘導や補充が、現在の治療を補完しうることを示します。米国において臨床試験中(化血研)の治療用中和単クローン抗体KD-247の基礎研究として、in vitro での逃避ウイルスの誘導実験と、様々な治療薬との併用効果の検討 (図2A)を行なっています。最近では、ミズーリ大学のサラフィアノス博士と共同研究で抗体の結晶構造解析を行い、ウイルスの変異に対して抗体の交差反応性を人工的に増大させる研究を進めています。HIV-1の中和抵抗性メカニズムのひとつとして、エンベロープ蛋白(ENV)の3量体形成による中和エピトープ遮蔽が提唱されていますが、その分子メカニズムは不明です。我々は、中和エスケープ研究の過程で見出したgp120、V2領域のL175P変異に注目し、ヘテロ3量体ENVを用いたHIV-1の中和抵抗性メカニズムの研究を行っています(図2B)。

(図2A)

(図2B)

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臨床レトロウイルス学分野(松下研究室)
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